
アナ・グランツ 「Buzz Only」
ロサンゼルス在住の画家アナ・グランツの日本初個展。色とその欠落、物と物のあいだの「距離」を探る静かな絵画展。
この度KAYOKOYUKIは、アナ・グランツの個展「Buzz Only」を開催いたします。グランツはマサチューセッツに生まれ、ロサンゼルスを拠点に活動する画家であり、この度日本では初めての個展となります。彼女は具象と抽象を行き来しながら、素材そのものの存在感や制作プロセスを重視し絵画を制作してきました。塗る、削る、研磨する、重ねるといった反復的な行為を通じ、色彩や形態、質感を少しずつ変化させながら画面を構築しています。
本展の作品においてグランツは「色」、またはその欠落について特に関心を深めています。彼女はキャンバスを木製パネルに張る前に染め、さらに画面に下地処理を施してから制作を始める手法をとっています。キャンバスの側面(縁)にも色をつけますが、それは周辺部として存在し、ある角度から見ると絵画の一部となる一方で、絵画と壁の境界を、なだらかに遷移させる役割も担っています。
グランツにとって色は単なる美的選択ではなく、絵画における限られた色づかいや色の反復が、まるで装いのコーディネートにおいて、個性的に洋服やアクセサリーを組み合わせるように、ある種独特の規則性を生み出していくことに関心を抱いています。色についての選択が、どのようなときに「軽い」ものとして受け取られ、「重い」ものとして捉えられるのか。色がどのように意味を与えられ、分類されるのか。
こうした意味づけが作品の中の空間を、どう構成し得るかについて画家は着目しています。本展では白黒写真から着想を得た作品も出品されますが、画面からは色彩が排除されているものの、青や茶色、クリーム色などの色合いがほのかに残されています。
また彼女は人と物との間でうまれる感情的・空間的な構造や、互いに異なるもの同士の間に存在する「距離」についても考えを深めてきました。例えば古代の少女の墓碑であるメトロポリタン美術館の《少女の墓碑》1を例にあげ、この作品で表されている、少女と鳩との間に広がる空間についてたびたび言及しています。鳩のくちばしは少女の唇を優しくついばんではいますが、二者は完全には一体化していません。
愛情の空間的な構成ー親密でありながらも、互いに自由でいられるだけの余白を残すことーは、グランツの絵画における重要な考えです。彼女の作品には、互いに結びつこうとしながら、同時に離れていくようにも見える、絡み合う形がたびたび登場します。グランツの作品は、強要や誘惑、あるいは下心なしに、絵画がいかに見る人の心を捉え続けることができるのか、という問いを投げかけています。
異なるもの同士のつながり――空間とキャンバス、色と色、人と衣服、鳩と少女――を考えるとき、各々は別のものでありながらも、お互いにどのようにして関係を持ち得るのか。「何が描いてあるか(イメージ)」よりも、「何が何と関係しているか」に重点がおかれる様子は、画面上で具体的な物語や感情を提示するのではなく、入念かつ継続的な制作工程を踏まえて、見る/感覚する経験を生み出してきた、画家の一貫した姿勢です。
本展のタイトル「Buzz Only」は、彼女の音楽のプレイリスト名から取られたものだといいます。特定の意味を作品に与え、見る人の鑑賞を限定することを避けるため、あえて関係のないところから引用したというタイトルですが、彼女の静的な絵画が、"buzz"――ざわめき、音、振動――を予感させる言葉と結ばれることは、興味深いつながりでもあります。
絵画と空間、色と色、音楽と美術――様々な関係性を自由に結びつけ、お楽しみいただきながら、この機会にぜひご高覧ください。
