
田口薫 「ELSEWHEN」
現代美術家・田口薫による個展。15世紀の視覚装置「Peep Show」を題材にした新作の平面作品を展示。
この度、TAV GALLERYでは初の出展となる現代美術家の田口薫による個展を開催する。田口は祖父母の代からカトリックの家系に生まれ落ち、自身も幼い頃に洗礼を受けたカトリック信徒である。木製パネルに描かれたキリスト教の祭壇画をモチーフにした作品には、「受胎告知」や「聖顔布」、「アンドロギュノスの神話」など西洋起源の歴史的図像が展開されていると同時にそれらは、彫刻刀によってパースや空間が削られている。
絵画と版画の中間のような手つきとも言うべきか、簡単な形容はできない数多くの平面作品を制作している。今回の個展で田口が扱うのは、15世紀に遠近法を広めるために考案されたとされる玩具「Peep Show (ピープ・ショー) 」を題材にした、新作の作品群が並ぶ。透視図法をいじっくった目線の錯乱に望むそうだ。
Peep Show (ピープショー ) は、古代から知られる光学現象や、15世紀ルネサンス期に発展した遠近法を背景に成立した「覗き見る」ための視覚装置である。17世紀のオランダでは、遠近法によって箱の内部に立体的な空間を再現するPerspective Boxが制作され、鑑賞者は小さな穴から一人で世界を覗いた。
18〜19世紀には光学玩具・街頭見世物として大衆化し、都市や外国、戦争など「見ることのできない世界」を提供する娯楽へ発展し19世紀末以降は写真・映画と結びつき、次第に性的な覗き見娯楽を指す言葉として定着していったとされる。田口の特徴は、表現に於ける自己探究のプロセスに於いて、歴史的事象と、現在地の伝承された地平までの距離を幾何学的な整合性を持って、コントロールを試みることにある。
それは歴史的事象から空間や時間的を超えて、自己形成までに至った距離と時間軸を一本化するためのルールであり、そのような、客体下 (描く) と主体化 (削る) を行う、田口の表現は、自己解剖的で、一種の暴力的なルールを課しているかのように思われた。時折、モチーフとして描かれる人物像は、抽象度が高く、それらは「鑑賞行為を鑑賞する誰か」であり、それは「マリア」のような存在とも形容ができる。
美術を必要としている鑑賞者である我々も、体系的な図像を介して知った神々の姿も、双方ともアブストラクトな存在であることに変わりはない。歴史的事象と、伝承として成立する自己像の距離の中に明白な事実は「経過した時間」だけであったのかのように、田口は、自らに課したルールを介して、自己と歴史的事象の往還によって、「時間」をもてあそぶアーティストであると言えよう。 田口の描く新たな図像から、現在の地平と、実存の在処を、見つけ出して欲しいと願う。
